代々木果迢会別会

代々木能舞台創建70年記念
故 浅見眞高3回忌追善

代々木果迢会別会

(令和2年3月29日(日)延期公演)

令和3年2月23日(火・祝)
国立能楽堂


お陰様で多くの方に見守られながら終了いたしました。

誠に有難う御座いました。

思い返すとあっという間の1年半でした。

つくづく世の中助け合いなしには生きられないなと痛感しました。

(あ、ちょっと長くなるかもです)

『道成寺』を披かせていただくことが決まり、本番の半年ちょっと前、2019年の夏前頃からお稽古を始めました。

2020年1月、新型コロナが話題になり始めた頃は、まさかこんな事になるとは予想してませんでした。

日に日にコロナの話題持ちきりになり、公演も中止や延期が出始めた頃も、正直どこか他人事のように感じ、自分達は大丈夫、何としてもやると根拠のない自信のようなものがありました。

2020年3月19日(木)
和歌山県にある道成寺を訪れました。桜が咲き始め、ポカポカした良いお天気の日でした。

『道成寺』の舞台をイメージしながら石段を上がったり、鐘楼跡の桜に向かって乱拍子の真似事をしてみたり。。
御堂の中には多くの能楽師・歌舞伎役者の『道成寺』等の写真が飾られていました。
鐘の作り物や、清姫伝説の絵も飾ってありました。
純粋そうな女性が、おそらく男性を追いかけている場面だと思いますが、下半身が蛇になりつつある写真で、とてもおぞましく、美しく、とても感銘を受けました。

石段を降りたところにあるお土産屋さんでは作りたての釣鐘饅頭とお茶をいただきながら、お店の方と少しお話をしました。
新型コロナにより観光客もめっきり減っていたようでした。
月末に舞台があることを話したら、がんばってくださいねと優しい声をかけていただきました。
帰り道に3月29日に配布するパンフレットの最終校正を必死にしていたのを覚えています。
最終校正段階に入らないと本気にならないダメ人間でした。。

2020年3月24日(火)お申合せも済み、当日に向けて最終調整に入りました。

翌日の3月25日(水)夜、銕仙会青山能があり、ちょうど同じ頃、小池都知事から不要不急の外出自粛要請が出されました。

青山能の楽屋でそのニュースが話題になり、先輩方とも、そんなこと言われても、ねぇ、みたいな感じで、まだまだ公演をしないという選択肢は正直頭にありませんでした。

が、その帰宅後、1通の電話があり、事態は大きく急変しました。

その時初めて、代々木果迢会別会ができないかもしれない、つまり『道成寺』が披けないという考えがよぎりました。

翌日果迢会のメンバーで話し合いがありました。
東京都からの不要不急の外出自粛要請が出され、代々木果迢会別会はその最初の日曜日の予定でした。
今回の『安宅』『道成寺』という曲は能の中でも特別な演目です。
そのこともあり、公演を行わないという選択肢は自分の中にはありませんでした。
が、それは能楽師の、個人のエゴであり、社会的に見ればそれはただの自己満足のようなものなのだなぁと考え始めました。
話し合いでは、無観客での公演決行や、オンライン配信など、なんとか公演を行う方向の意見が多く出ましたが、それまでやる気満々だった気持ちが急にサーッと冷めていきました。

そしてついに「中止か、延期」の選択肢が出ました。

自分でも驚くほど冷静に受け入れることができました。

『道成寺』という若手能楽師にとっては1番大きな演目、その公演を行わない。
とても言い出せることではなかったと思います。

その場で公演は来年(つまり昨日)に延期が決定し、また、事態収集の目処が立たない為、代々木果迢会例会も1年延期と決定しました。すぐさま出演能楽師、翌日お客様へ延期の連絡を始めました。
たくさんの方から温かい励ましのお言葉を頂戴しました。

中にはどうしても連絡がつかない方もいたりと、いつものお申し込み受付では対応しきれないことが思い知らされました。

駅から自宅まで自転車での帰宅途中、『道成寺』が披けない事態になったのは、能の先人たちから「お前にはまだ早い」と言われているようで、また、普段の心構えや行いがよっぽど悪かったのかと、悲しいやら悔しいやら、涙が止まりませんでした。


3月29日(日)
東京は桜満開の中、雪の降るとても寒い日となりました。

連絡がつかなかったお客様もいらした為、国立能楽堂ロビーでお客様対応で待機しておりました。

幸いなことにお客様は1人もおいでになりませんでした。

開場時間の12時前から、17時過ぎまで、1人で寂しくポツンと受付に座ってました。

シーンとした国立能楽堂、、
本来なら今頃『道成寺』の舞台が始まった頃かなぁ。。乱拍子の張り詰めた空気かなぁ。。鐘の中かなぁ。。などと考えておりました。
なかなか寂しいものでした。


それから政府による緊急事態宣言があり、公演やお稽古が軒並み中止・延期になり、今まで体験したことのない事態になりました。

昨年は
6月朋之会『養老』
9月代々木果迢会『鵺』
など、シテ役は全て延期になってしまいました。

秋頃からようやく公演も戻り始めましたが、年が明け、新型コロナ感染者数が再び増加し始め、東京都にも緊急事態宣言が再び発令されヒヤヒヤしてましたが、お陰様で当日を迎えることができました。

昨年のお客様のほとんどの方が約1年後の延期公演を楽しみに待っていてくださいました。
座席販売を再開してからも順調に御予約が入り、完売御礼、キャンセル待ちとなっておりました。

最近話題の金曜ドラマ『俺の家の話』でも『道成寺』が取り上げられたこともあり、間際にお問い合わせを多数いただいたようです。
ドラマの影響力はすごいですね。。
ちなみにドラマに出ていた『道成寺』の能面とお装束、実際に僕が使わせていただいたものでした。

当日は休憩が少なく、また終演時間も大幅に伸びてしまい、申し訳ございません。
また座席のことでも、一部の方にご不便ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

『道成寺』はいつもより、、自分で言うのもアレですが、僕はわりと舞台上では冷静な方だと思うのですが、いつもよりさらに呼吸も落ち着いて勤められたように思います。

何度も稽古に付き合ってくれた弟も、本番が1番良かったと言ってくれ、一安心です😌笑

1年間煩雑な事務を手伝ってくださった方や、いつもそばで支えてくれた家族にも、心からお礼申し上げます。
誠に有難う御座いました。

つくづく世の中は人の支えがあってこそ成り立つものだと改めて思いました。

このような状況の中お出ましくださるお客様、事務作業など裏方をお手伝いくださる方、出演能楽師の方々、たくさんの方に支えられ、一つの舞台が出来上がりました。

一期一会、ご縁に感謝です。

まだまだ落ち着かない日々が続きますが、皆様どうぞお身体にご留意の上お過ごし下さいませ。

今後とも宜しくお願い申し上げます。

小早川泰輝 拝

小早川泰輝 ホームページ

観世流能楽師 小早川泰輝(こばやかわ やすき)のホームページです。

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